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最高裁判所第二小法廷 昭和49年(行ツ)60号 判決 1975年3月28日

上告人 日本電信電話公社

訴訟代理人 貞家克己 近藤浩武 海老根進 ほか四名

被上告人 齊藤忠男

主文

原判決中被上告人に関する部分を破棄し、第一審判決中右部分を取り消す。

被上告人の請求を棄却する。

右部分に関する訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人永津勝蔵、上告指定代理人貞家克己、同近藤浩武、同海老根進、同中林正夫、同外松源司、同渡辺信行、同水村欽哉の上告理由について。

所論の連合国最高司令官の声明及び書簡が公共的報道機関その他の重要産業から共産主義者及びその同調者をすべて排除すべきことを要請した同司令官の指示であつて、それらの者のうち、官庁等の機密を漏洩し業務の正常な運営を阻害するなどその秩序を乱し又乱すおそれのある者のみを排除すべく裁量の余地を与えたものとは解されず、それにつき憲法違反の問題を生ずるものでないことは、当裁判所大法廷判例(昭和二六年(ク)第一一四号同二七年四月二日決定・民集六巻四号三八七頁、昭和二九年(ク)第二二三号同三五年四月一八日決定・民集一四巻六号九〇五頁)の趣旨とするところであり、今日においても、右判例を変更する必要は認められない。また、右指示の実施に関して決定された原判示の閣議決定等も、共産主義者及びその同調者を包括的に排除の対象としたものと解すべきである(当裁判所昭和四四年(行ツ)第五三号同四八年二月二三日第二小法廷判決参照)。そして、右指示の重要産業に電気通信事業を営む旧電気通信省が含まれることは明らかである。

以上によれば、共産主義者であつたことにつき当事者間に争いのない被上告人を右指示に基づいて免職に付した本件処分は有効というべきであつて、これを無効とした第一審及び原審の判断は、右指示及び閣議決定等の解釈を誤つたものというほかなく、論旨は理由がある。

よつて、被上告人に関する部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消したうえ、被上告人の請求を棄却することとし、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川信雄 岡原昌男 大塚喜一郎 吉田豊)

上告理由

原判決は、連合国最高司令官の昭和二五年七月一八日付け内閣総理大臣あて書簡による指示の解釈を誤り、右指示の解釈に関する最高裁判所の判例に反する判断をしているものであつて、この法令の違背は、判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一、原判決及びその引用する第一審判決は、連合国最高司令官の昭和二五年七月一八日付け内閣総理大臣あて書簡による指示の趣旨について、「本件指示は、結局、共産主義者またはその支持者のうち、積極的に虚偽、煽動的、破壊的な言動を行なう者およびそのおそれのある者の排除さるべきことを意味していると解するのが相当であり、」、「右指示は、一般的に憲法第一四条の規定に反してまで、単なる共産主義者またはその同調者であることのみの理由で公務員をその地位から排除すべきことをわが国政府に命じたものではなく、それらの信条をもつほかに、さらに官庁等の機密をもらすなどその秩序をみだしまたはみだすおそれのある者を排除すべきことを命じたものと理解されるのである。」と判示し、被上告人が単に共産主義者又はその同調者であることのみを理由としてなされた本件免職処分は、連合国最高司令官の前記指示が所期する被排除者の範囲外にある者を排除の対象とし違憲無効であるとして、被上告人の本訴請求を認容すべきものとした。

二、しかしながら、連合国最高司令官の前記指示は、共産主義者又はその同調者と認められるすべての者を重要産業から排除すべきことを要請した趣旨と解すべきであつて、このことは以下に掲げる最高裁判所の判例に徴して明らかである。

1 昭和二七年四月二日大法廷決定(民集六巻四号三八七頁)

この決定は、報道機関が、その従業員を共産党員又はその支持者であることを理由として解雇した場合には、その解雇は、昭和二五年七月一八日付け連合国最高司令官から内閣総理大臣あて書簡による指示に従つたものとして有効である旨判示したものであり、排除されるべき共産党員又はその支持者の範囲については、何らこれを限定的に解していない。

2 昭和三五年四月一八日大法廷決定(民集一四巻六号九〇五頁)

この決定は、まず「一般に民事上の法律行為の効力は、他に特別の規定がないかぎり、行為当時の法令に照らして判定すべきものである。」と判示して、日本国との平和条約発効前に超憲法的な効力をもつ法規範として有効に存在していた連合国最高司令官の指示に基づきなされた解雇の効力は、平和条約発効とともに右指示が効力を失つたとしても何ら影響を受けるものではないことを明らかにし、次いで、昭和二五年七月一八日付け連合国最高司令官の内閣総理大臣あて書簡は、公共的報道機関にとどまらずその他の重要産業から共産党員又はその支持者を排除すべきことを要請する連合国最高司令官の指示と解すべきである旨を判示し、化学工業部門に属する企業が従業員に対し共産党員又はその同調者であることを理由としてした解雇を有効と判断したものである。

3 昭和四八年二月二三日第二小法廷判決(昭和四四年(行ツ)第五三号、上告人山内清子外二名・被上告人国、刊行物未登載)

(一) この判決は、郵政省職員に対する免職処分の無効確認等請求訴訟において、連合国最高司令官の前記指示により国家機関その他公の機関から排除すべきことを要請されている対象者の範囲につき、共産主義者又はその同調者であることのほか、公務上の機密を漏えいし公務の正常な運営を阻害するなど秩序をみだすおそれのあるものであることを要件とするかどうかが直接の争点となつた事案に関するものである。

(二) 原審(名古屋高裁金沢支部昭和四三年(行コ)第二号、昭和四四年二月二八日判決)は、次のように判示して、排除すべき対象者としては、単に共産主義者又はその同調者であることをもつて足り、それ以上に、公務上の機密を漏えいし公務の正常な運営を阻害するなど秩序を乱すおそれのある者であることを要しないとした。

「しかしながら、『マ声明および書簡』(上告代理人注。連合国最高司令官が、昭和二五年五月三日に日本国民全般にあててした声明及び同年六月六日、七日、二六日、七月一八日の四回にわたつて吉田内閣総理大臣あてに発した書簡を指す。)は、その趣旨に照せば、当時の我国の公共の安寧と福祉を共産主義勢力の攻撃より防衛するため、公共的報道機関等から共産主義者又はその同調者、即ち日本共産党員又はその支持者を排除すべきことを要請したものとみるのが相当であり、又右指示はたんに公共的報道機関についてのみなされたものではなく、その他重要産業や国家機関をも含めてなされたものとみるのが相当である。

そしてまた右声明及び書簡が、これら共産勢力によつて今後引起されようとしている社会不安や無法状態の危険に対処するために日本において即刻是正措置をとることを要請している点に鑑みれば、個々の対象者についての具体的な秩序破壊行為ないしはその危険性を問題とし、これら個別的所為に対する制裁として排除を命じたものではなく、前記の如き民主々義秩序破壊の危険に対する防衛の目的で共産主義勢力の一員としての日本共産党員またはその支持者の排除を指示したものと解すべきである。(中路)従つて、右「マ声明および書簡」に従つてなされたことが明らかな本件免職処分は、控訴人らが当時日本共産党員又は共産主義の同調者であつた以上有効であつたものといわねばならない。

控訴人らは、昭和二五年九月五日の閣議決定には、共産主義者又はその同調者で、国家機関その他の公の機密を漏洩し業務の正常な運営を阻害するなどその秩序をみだり又はみだる虞れがあると認められるものを排除する旨が定められている点を指摘するが、右閣議決定は、その決定の時期、内容に照し、前記「マ声明および書簡」の実行として決定されたものであることが明らかであるところ、前記「マ声明および書簡」の趣旨によれば、前記閣議決定は「共産主義者又はその同調者」を包括的に対象としているものであつて、特に共産主義者又はその同調者の中で、国家機関の機密を漏洩し、業務の正常な運営を阻害する等その秩序をみだり又はみだる虞れがある者のみを限定して対象としたものとは解されない」。

(三) 第二小法廷は、原審判示を全面的に是認し、次のように判示して上告を棄却した。

「所論は、まず違憲をいうが、所論の連合国最高司令官の声明および書簡の趣旨が原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)のように解さるべきものであつて、それらにつき憲法違反の問題を生ずるものでないことは、当裁判所の判例(昭和二六年(ク)第一一四号同二七年四月二日大法廷決定・民集六巻四号三八七頁、昭和二九年(ク)第二二三号同三五年四月一八日大法廷決定・民集一四巻六号九〇五頁)の趣旨とするところであるから、右所論は採り難い。所論は、また、右声明および書簡ならびに所論閣議決定の解釈に誤りがあるというが、右声明および書簡の趣旨が原判決のように解さるべきことは前示のとおりであり、原判決の掲げる事情のもとにおいては、右閣議決定の趣旨についての原判決の判断は是認することができるから、右所論も採り難い。」

4 昭和四八年七月一七日第三小法廷判決(昭和四七年(オ)第二八四号、上告人後藤三男外四名・被上告人日本電信電話公社、刊行物未登載)

(一) この判決も、共産主義者又はその同調者であることのみを理由とする旧電気通信省職員に対する免職処分が連合国最高司令官の前記指示に適合するかどうかが争われた事案に関するものである。

(二) 原審(東京高裁昭和四六年一二月一四日判決・判例時報六五七号八九頁)は、右の争点に関し、まず、連合国最高司令官の前記指示が単に公共的報道機関だけでなくその他の重要産業をも含めてなされたものであることを明らかにし、旧電気通信省も右にいう「その他の重要産業」に該当する旨判示した後、前記指示がこれらの重要産業から排除すべき旨を要請している対象者の範囲につき次のように判示して、免職処分を有効と判断した。

「連合国最高司令官の右指示は『共産主義者又はその支持者』を排除すべく要請したものである。そして右指示の文言の全趣旨によると、右の指示は共産主義者又はその支持者と認められる限り、そのすべてを排除すべく要請したものと解すべきであり、官庁、公団、公共企業体等については、共産主義者又はその支持者のうち、その機密を漏洩し業務の正常な運営を阻害するなどの秩序をみだり、又はみだる虞があると認められる者であるかどうかを判断させ、これに該当する者のみを排除すべく裁量の余地を与えたもの(原判決理由第三項参照)とは到底解することができない。右の指示は「共産主義が……破壊的暴力的綱領を宣伝し……法に背き秩序を乱し公共の福祉を損わしめる危険が明白」(昭和二五年七月一八日付書簡)であると判断し、この判断を前提として、その信奉者又は支持者の排除を指令しているものである。したがつて、原判決添付の別紙(一)(二)の閣議決定、閣議了解(上告代理人注。本件の第一審判決添付の別紙(二)及び(三)と同じ。)も、「共産主義〔者〕又はその支持者」であるかどうかの判定に慎重を期し、かつ右指令の実施を円滑に行う目的で、そのような表現をとつたものと解すべく、共産主義者又はその支持者であることが明らかな者についても、業務の秩序をみだり、又はみだる虞があるかどうかを判断し、その虞がないと認められる者は、これを排除の対象から除外すべきものとした趣旨とは解しえない。

被控訴人らがいずれも当時共産主義者であつたことは、前記のとおり被控訴人らの自認するところである。そうすると、これを理由として行われた本件各免職処分は、右の指示に適合するものとして、有効といわざるをえない。」

(三) 第三小法廷は、原審の右判断を支持し、次のように判示して上告を棄却した。

「所論の連合国最高司令官の声明および各書簡が公共的報道関係のみならずその他の重要産業から共産主義者およびその支持者を排除すべきことを要請した同司令官の指示であつて、右指示は、当時においては、法規としての効力を有するとともに、わが国の国家機関および国民に対し最終的権威をもち、憲法を含む日本の法令が右指示と牴触するかぎりにおいてその適用を排除されていたことは、当裁判所の判例の趣旨とするところであり(当裁判所昭和二六年(ク)第一一四号同二七年四月二日大法廷決定・民集六巻四号三八七頁、昭和二九年(ク)第二二三号同三五年四月一八日大法廷決定・民集一四巻六号九〇五頁)、今日においても、右判例を変更すべき必要は認められない。そして、右指示の重要産業には、電気通信事業を営む旧電気通信省が含まれることは明らかである。(中略)

以上によれば、共産主義者であつたことにつき当事者間に争いのない上告人らを右指示に基づいて免職に処した本件免職処分が有効であるとした原審の判断は、正当というべきである」。

5 昭和四九年二月二六日第三小法廷判決(昭和四八年(行ツ)第三五号、上告人西川二三雄外七名・被上告人日本電信電話公社、刊行物未登載)

(一) この判決の事案も前記3及び4の判決の事案と同一である。この事件の第一審判決は、本件の第一審判決と判決裁判所の構成及び判決言渡年月日を同じくしており、レツドパージ関係部分の判決理由も同一文章であつて、ともに免職処分を無効と判断したのであるが、両事件は控訴審において別々の部に係属し、西川二三雄外七名の事件について先に控訴審判決が言い渡された。これに対する上告審判決がこの判決である。

(二) 原審(東京高裁昭和四七年一一月二八日判決・判例時報六九一号八二頁)は、連合国最高司令官の前記指示により排除を要請されている対象者の範囲について次のとおり判示し、共産主義者又はその同調者であることのみを理由としてされた免職処分を右指示に適合するものとして有効と判断した。

「連合国最高司令官の前記声明(上告代理人注。昭和二五年五月三日付け声明)および内閣総理大臣あての各書簡(上告代理人注。昭和二五年六月六日付け、同月七日付け、同月二六日付け及び同年七月一八日付け各書簡を指す。)の趣旨は、当時の連合国最高司令官において、国際的および国内的情勢の下における占領政策を示し、この占領政策を達成するために必要な措置として、公共的報道機関その他の重要産業から共産主義者またはその支持者を排除すべきことを要請した指示であり、しかも、その指示は共産主義者またはその支持者と認められる限り、そのすべてを排除すべく要請したものと解するを相当とし(最高裁判所昭和二七年四月二日大法廷決定、最高裁判所民事判例集六巻四号三八七頁以下参照)、官庁、公団、公共企業体等については、共産主義者またはその支持者のうち、その機密を漏洩し業務の正常な運営を阻害するなどその秩序をみだり、またはみだる虞があると認められる者であるかどうかを判断させ、これに該当する者のみを排除すべく裁量の余地を与えたものと解することはできない。右指示……は「今日までの諸事件は共産主義が公共の報道機関を利用して、破壊的暴力的綱領を宣伝し、無責任不法の小数分子を煽動して法に背き、秩序を乱し、公共の福祉を損わしめる危険が明白」であると判断し、この判断を前提として、共産主義者またはこの支持者の排除を指令しているのである。したがつて、原判決添付の別紙(二)(三)の閣議決定、同了解(上告代理人注。本件の第一審判決添付の別紙(二)及び(三)と同じ。)も、「共産主義者またはその支持者」であるかどうかの判定に慎重を期し、且つ右指令の実施を円滑に行なう目的で、そのような表現をとつたものと解すべく、共産主義者またはその支持者であることが明らかな者についても、さらに機密を漏洩し、業務の正常な運営を阻害する等その秩序をみだり、またはみだる虞があるかどうかを判断し、その虞がないと認められる者はこれを排除の対象から除外すべきものとした趣旨とは解し難い。

原告ら二名がいずれも本件処分当時日本共産党員であり、共産主義者であつたことは<証拠省略>と弁論の全趣旨によつて明らかであるから、これを理由としてなされた本件各免職処分は、右指示に適合するものとして有効といわざるをえない。」

(三) 原審の判断中右に摘示した部分を違法とする上告論旨に対し、第三小法廷は次のように判示して上告人の主張を排斥し、上告を棄却した。

「所論の連合国最高司令官の声明及び各書簡が公共的報道機関のみならずその他の重要産業から共産主義者及びその同調者を排除すべきことを要請した同指令官の指示であつて、右指示は、当時においては、法令としての効力を有するとともに、我が国の国家機関及び国民に対し最終的権威をもち、憲法を含む日本の法令が右指示と牴触するかぎりにおいてその適用を排除されていたことは、当裁判所大法廷判例の趣旨とするところであり(昭和二六年(ク)第一一四号同二七年四月二日決定・民集六巻四号三八七頁、昭和二九年(ク)第二二三号同三五年四月一八日決定・民集一四巻六号九〇五頁)、今日においても、右判例を変更する必要は認められない。そして、右指示の重要産業には、電気通信事業を営む旧電気通信省が含まれることは明らかである。なお、民事上の法律行為の効力は、特別の規定がないかぎり、行為当時の法令の規定に照らして判定すべきことはいうまでもない。

原審の確定するところによれば、上告人落合三郎、同蜂谷優夫はいずれも共産主義者であつて、同上告人らに対する本件免職処分は連合国最高司令官の前記指示に基づいてされたものであるというのである。

したがつて、以上によれば、同上告人らに対する本件免職処分を有効とした原審の判断は、正当というべきである。」

三、以上述べたところから明らかなように、連合国最高司令官の前記指示により重要産業から排除すべきことを要請されている対象者の範囲は、共産主義者又はその支持者と認められる者のすべてであつて、右指示が、官庁、公団、公共企業体等の公的機関から排除すべき対象者を、共産主義者又はその支持者のうち、その機密を漏らすなどその秩序を乱し又は乱すおそれのある者に限定した趣旨のものと理解すべきでないことは、最高裁判所の判例上確立された解釈である。

しかるに原判決及びその引用する第一審判決は、前記一において指摘したとおり、連合国最高司令官の本件指示は、共産主義者又はその同調者であることのみの理由で公務員をその地位から排除すべきことを我が国政府に命じたものではなく、共産主義者又はその同調者のうち、「積極的に虚偽、煽動的、破壊的な言動を行い又は行うおそれ」あるいは「官庁等の機密を漏らすなどの秩序を乱し又は乱すおそれ」のある者を排除すべきことを命じた趣旨である旨判示し、右指示の趣旨を殊更限定的に解釈しているのであるから、原判決は最高裁判所の判例に反する誤つた判断をしたものといわなければならない。

四、なお、付言するに、原判決は、連合国最高司令官の本件指示の趣旨を上述のように限定的に解釈すべき理由として、第一に、同指示の内容及びその適用範囲を理解するには、厳にその指示の意味内容を確かめ、それが憲法の規定に反することがないようにできるだけ限定的に解釈、適用するのが、我国及び我が国民の採るべき態度でなければならないこと、第二に、当時その指示の内容及び適用範囲として政府が了解し、かつ、その実施に関して決定した第一審判決添付の別紙(二)及び(三)の閣議決定、閣議了解によれば、当時、政府は、右指示は公務員にも適用されるものであり、公務員が共産主義者又はその同調者で、官庁等の機密を漏らし、業務の正当な運営を阻害するなどしてその秩序をみだし、又はそのおそれのある者をその地位から排除すべきことを指示されたものと了解していたものと解されることを挙げている。

しかし、連合国最高指令官の指示は、当時においては、法規としての効力を有するとともに超憲法的なものとして我が国の国家機関及び国民に対し最終的権威をもち、憲法を含む我が国の法令が右指示と牴触する限りにおいてその適用を排除されていたことは、前掲最高裁判所の各判例の示すとおりであるから、右判示を解釈、適用するについて、憲法の規定に反することがないようにできるだけ限定的に解釈、適用すべきものとする原判決の見解は、事理の順逆を誤つた本末転倒の立論というべきである。

また、第一審判決添付別表(二)及び(三)の閣議決定、閣議了解は、共産主義者又はその同調者を包括的に対象としているものであつて、特に共産主義者又はその同調者の中で、国家機関の機密を漏えいし、業務の正常な運営を阻害する等その秩序をみだり又はみだるおそれがある者のみを限定的にその対象としたものとは解せられず(前記二の3所掲の第二小法廷判決参照)、共産主義者又はその支持者であるかどうかの判定に慎重を期し、かつ右指令の実施を円滑に行う目的でそのような表現を採つたにすぎない(前記二の4所掲の第三小法廷判決及び前記二の5所掲の第三小法廷判決が維持した各原審判決参照)のであるから、各閣議決定及び閣議了解の表現から逆に連合国最高司令官の本件指示の趣旨を推論しようとするのは、これまた事理の順逆を誤るとのそしりを免れないものというべきである。

これを要するに、原判決が右指示の趣旨を限定的に解釈すべき理由として挙げている論拠は、いずれも最高裁判所の判例により確立された解釈を覆すに足る説得力をもつものではなく、原判決の示した解釈は到底首肯することができない。

五、以上説明のとおりであるから、結局、原判決には連合最高司令官の本件指示の解釈を誤つた違法があるといわなければならない。しかも、原判決の確定した事実によれば、被告人に対する免職処分は、本件指示を実施するため、昭和二五年一一月一〇日(原判決の引用する第一審判決三八丁裏八行目に「昭和二四年」とあるのは「昭和二五年」の誤記であることが明らかである。)任命権者である電気通信大臣において、被上告人が共産主義者又はその同調者であることを理由としてしたものであり、当時被上告人は日本共産党員であつたというのであるから、本件指示の正当な解釈に従えば、右免職処分は有効と判断すべきものである。

したがつて、原判決に存する前記法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、この点において原判決中被上告人に関する部分は破棄を免れないものと思料する。

以上

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